文学の領域・美術の領域「とかげ」−室生犀星随筆より−藤井肇展

とかげ

ガレリア画廊 外観 ガレリア画廊看板  この個展の案内が届いたのはいつのことだっただろう。
 暑い夏の1日だ。
 「へえ?!こんなところに画廊があり,こんなこともしてるのか!」と感心し,でも藤井さんだものなあ,面白いことして当たり前だよなあ,などと思いつつも,忙しい夏の日々は過ぎていったのだった。
 そして,2008年の8月の最後の日であり最後の日曜日にようやく吉野へと向かうことができたのだった。
 今回は,その「藤井肇展」,「”文学の領域・美術の領域”『とかげ』−室生犀星随筆より−」の報告である。

 ちなみに,上の写真は画廊の外観で,左半分がこの画廊「ガレリア」である。では,右半分は?ということになるが,こちらは「FUUGA」という洋食屋である。


 さて,この画廊は入ってすぐは,喫茶室である。
 それと,鞄などの小物類の展示販売もしている。
 外観の写真で言うと,左の円形の部分が画廊の主たる部分である。
 そこへ足を踏み入れると,まずはこの絵がある。
 そして,室生犀星の「とかげ」のテキストと藤井さんの紹介がある。


 1階を撮影すると,こんな感じ。
 そして,階段を上がって2階へと行く。

 2階もまた,こんな感じである。

 では,「とかげ」の物語の流れに沿って,その絵の雰囲気を紹介していこう。
 絵の横の室生犀星の文も書き写してみた。


 とかげが這うている。
 飴色の肌をしているのと,虹のような色をしているのとが,まぶしい日光の中を這い出しながら,低い蚊や蝿の飛ぶのを見ている。


 あぶらのように柔らかいからだが砂利の間にたらりと零れると,すぐ這い出して行くのである。
 そしては又立ち停って眩しい夏の日光の中にうずくまっている。


 かれらは二疋ずつ追いかけ合ったりして,庭先の森閑とした昼過ぎに,寂しい忌み嫌いされるその姿を現わした。


 明るい日光というものは,また,夏の午後過ぎというものは余りに明るすぎて,しんとして物寂しいものである。


 人間はそんなときに睡たくなるものだ。
 人間が睡たくなるというのは,よくよく考えると日光が真上に赫いて樹のかげが縮まっているような姿に似ている。


 そして眼の前にはとかげが三四疋這うていて,あぶらのように美しい肌を白い砂利の間に跼ませている。


 「とかげの尾を切っておやりなさい。ぴくぴく動くやつを切っておやりなさい。」
 そうわたしの頭脳の中で,ひと声がした。


 早くおやり,誰かがそう言う。


 切られた尾はこれも一匹の虫のようにきりきり舞いしているのが,だんだん力が弱くなりばたりと砂の上に舞わずに落ちてしまった。
 そして思い出したように少しずつ動いた。


 とかげは一寸くらいのちぎれた尾を置いて,からだの拍子をとりにくそうに逃げた。
 きれた尾がきりきり舞いながらこまかい砂を動かして,うずを巻いて,これは何という明るい眩しい日になったろうと思うた。


 わたしはまた棒切れをその尾に当てた。
 すると棒切れがさわると始めて吃驚したように又蠢いた。


 尾のない一疋のとかげが,砂地の白い遠方にかがんでその尾の冷たくなったのを眺めている。


 「一たい夏の永い日にあったことと言うものは,永い日自体から忘れやすいものだ。朝のことが昨日のことに思われるから妙だ。」


 翌日もわたしは可憐らしいとかげの遊びを見た。
 六七疋ずつ散らばって何かをあさっている姿が,昨日よりも深く心に長閑にかんじられた。
 その中の一疋の尾のない奴が雑じっているのが,わざとわたしの眼前をしずかに通りすぎた。


 かれはかれらしい無邪気さで,青い鬼であるわたしの眼の前を平気で歩いている。

 ここまでがギャラリーの部分である。
 そして,日の当たる明るい喫茶室に出ると,一番最初に紹介した大きなとかげの絵が1点と小さなとかげの絵2点がある。
 では,ここで藤井さんからもらったお手紙の「ご挨拶」を紹介しておこう。
 画廊の方から題材を決められての個展は初めてです。が,「妖精」に頼まれて2ヶ月間,「蜥蜴」を書き続けました。
 もとはといえば,白峰から発掘されたクワジマーラ・カガ・エンシス「草食蜥蜴」(加賀の乙女妖精)(泉から生まれた)に関係した国立科学博物館学芸員夏鍋真さん,県立白山ろく民俗資料館山口一男館長と知り合って,今年の現代美術展に「草食蜥蜴」を描いて発表したのが事の始まりです。
 ということらしい。

 最後にガレリア・アート・ギャラリーの案内文を紹介して,今回の藤井肇展の報告を終わることとしよう。
 ガレリアでは「文学の領域・美術の領域」と題し,短編・随筆・詩・歌・句……などさまざまな文学作品と,当店が招待した美術作家の作品を展示する試みを企画致します。
 その第一回目の作家は,先ごろ32年間の活動を終えた日本海造型会議や国際丹南アートフェスティバルなどで活躍を続ける藤井肇氏。
 文学は室生犀星の随筆「とかげ」をご紹介致します。
 アートの世界では百戦錬磨。行動がアートそのものという藤井氏も当画廊の企画には,暫し沈思黙考のご様子。
 犀星から受け取ったものを画家はどのように作品に転変させてゆくか。
 幻惑の夏の日。ぜひお越しください。
  2008年8月 ガレリア画廊 村上弥生

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 おまけで,この「ガレリア画廊」でのコーヒーブレイクは 満腹探検隊 ガレリア画廊のページ をご覧ください。