数学の教員志望だった学生時代,家庭教師のアルバイトをした子の中の一人に,中学校の三年間を教えたエヌ君という思い出に残る少年がいた。
彼は数学が不得意である。応用問題はさっぱりできない。中学校に入り,正負の数の計算まではまあ理解できたが,文字が登場すると,その考え方がなかなか理解できない。
さて,そんなエヌ君には特徴があった。それは「わからないことをとことん質問する」ということである。わからないところがあると「ここはわかって,ここがわからない。」と自分のわからないことを言う。こちらが説明しても,その説明がよくないと,「それではわからない。」と言う。
そんな彼には多くのことを学んだ。
まずは「子供はどこでつまずきやすいのか」ということを学ぶことができた。そのおかげで教員になっても重点的に丁寧に指導すべきところがどこなのかを押さえた上で授業するようになった。
次に「子供にとってどう説明すればわかりやすいのか」ということを学ぶことができた。具体例を挙げることの大切さや,小さな段階を積み上げることの大切さなど,自分が授業を組み立てる上での基本となった。彼への説明のために,学習参考書を探したが,その時見つけたいい参考書はその後の授業で参考にし,今でも愛用している。
そして何よりも彼が「わかった!」と言ったときが嬉しかった。それは彼に,教員になることの楽しさを教えてもらったのかもしれない。
(金沢市中学校教育研究会 会報 巻頭の言葉 2015年9月)