発掘

 1999年11月7日より24日まで,金沢のギャラリー点において「藤井肇'99個展『発掘』DISCOVER」が開催されました。

 発掘をテーマとしたオブジェが10点。
 450mm×450mm中にいったいどんな世界が広がるのか?

発掘 会場入り口より
入り口から中を見る

 個展の案内はがきにはこう書いてありました。

埋蔵文化財の発掘が盛んです。
でも,開発の副産物であり,未知を尋ねて
を目的としていないようです。
DISCOVERすべき巨悪者は,
今も素顔を見せることがありません。

さりげなく作品の中にも主張を込める(それも多分に政治的な),うーーん,それが藤井さんの作品です。
今回の作品も,じっくりと眺めるとそれが分かります。

今回の10点にはそれぞれ年代がついています。

「150億年」  
  「35億年」   
    「10万年」   
      「0年」     
        「AD500年」 
          「AD1931年」
            「AD1933年」
              「AD1933年」
                「AD1945年」
                  「AD1999年」
                    「AD2000年」

それぞれの作品とともに藤井さんのつけた年代を見ていきましょう。

150億年 銀河宇宙誕生
「150億年 銀河宇宙誕生」

恐竜の卵?
いやいや,このとき恐竜なんて存在しません。
150億年の昔,宇宙は発掘の対象になるなんて思っていなかったかな。
それとも宇宙には意志があったのかな。
ともかくも,われわれの宇宙は「無」のゆらぎの中から生まれた。

35億年 生命誕生
「35億年 生命誕生」

おいおい,もらった参考資料と作品についている名前とが違うぞ。
しかし,そんなことは気にしない。
何しろこの超忙しい中で作った作品だ。
細かいことを気にしていたら,作品は味わえない。
原始の海で最初の生命が誕生したのは約40億年前という話だが,こんな時間の広がりなんてもはや10億ちがったってどうでもいいような大きさだ。

10万年 人類誕生
「10万年 人類誕生」

約500万年前,アフリカで人類誕生。
約250万年前,道具を作り始めた。
約160万年前,火を使い始めた。
この作品群,火を使って焼いている。人類じゃなきゃできない作品。
そして,約15万年前,ホモ・サピエンス登場。
芸術を獲得したのは彼ら。

0年 キリスト誕生
「0年 キリスト誕生」

西暦はイエスの誕生を基準とするが,正確にはずれているらしい。
しかし,このコメントは,表題にケチばかりつけている。
この作品はベツレヘムの厩なのか?

AD500年 日本に仏教誕生
「AD500年 日本に仏教誕生」

「ねえねえ,仏教ってインドで生まれたんじゃないの?」
と,この”ギャラリー 点”の雅ちゃんが言う。
「そうや。それに日本に仏教が伝わったのは538年のはずや。」
とぼくが答える。
AD500年頃,まだ大和時代,大陸文化が伝わる。
仏教を受け入れる素地が育っていた頃。

AD1931 日本東南アジア侵略開始
「AD1931年 日本東南アジア侵略開始」

突然に近代にとぶ。
1431年の時を隔てて,日本はいつの間にか他人様の国に押し入る国となる。
そして,まもなく制作者の誕生。

AD1933 「発掘」制作者誕生
「AD1933年「発掘」制作者誕生」

この記念すべき年がなかったら,今頃このような個展もない。
そのころのものはいったい何が発掘できるのか?
66年前だ。
66年前に建てた家でも充分健在かもしれない。
がいつか発掘されるようなときが来るのだろうか。

AD1945 平和日本国誕生
「AD1945年 平和日本国誕生」

いよいよ戦後へとはいる。
これは終戦直後の廃墟なのか,それとも原爆投下後の広島か長崎か?
そして,この作品の横には
 NON NUCLEUS
核はいらない の文字がある。

AD1999「発掘」作品誕生
「AD1999年「発掘 作品」誕生」

そして,1900年代も終わりだ。
1900年代最後の1999年を締めくくるのは「発掘」

AD2000 21世紀への胎動
「AD2000年 21世紀への胎動」

さあて,2000年だ。
21世紀まであと???日

「AD2000年 21世紀への胎動」を上から見る 「AD2000年 21世紀の胎動」のアップ
おまけにちょっとAD2000の中をのぞいてみたりして……    
       それからAD2000にぐっと近づいてみたりして……

さて,このページをつくってからしばらくして,藤井さんよりメッセージをいただきました。

「発掘」のテーマについて
美術の作品と題名の関係につきましては,作家によっていろいろと異なることはご承知のとおりです。
私の今度の場合はまず,作品が出来て,その作品の後追いに題名をつけました。
作品づくりにあたっては,巨大なエネルギーによって廃墟と化した人間のつくった構造物をイメージとして,素焼きで作り,特殊な塗料を塗り,油類をかけて黒く焼きました。
炭はミイラなどの周囲に使われている状況を真似しました。
今建設されたビルなどが1世紀どころか100年も持つか,もし100年もったとしても,歴史色が今のビルに出てくるか大きな疑問です。
それに比べ,原子力を始め,人間の作りあげた巨大なエネルギーを併せ考えると,その無駄というか,恐怖というか,そのあたりを訴えているのが私の作品です。


さて,このメッセージを読んで,再び藤井肇の世界へ入ってみてください。